2011年06月07日

一緒になりたがっている

一緒になりたがっている
                            アイヌの人

『パパラギ』 より

「どのパパラギも職業というものを持っている。

職業というのが何か、説明するのはむずかしい。

喜び勇んでしなくちゃならないが、たいていちっともやりたくない何か、それが職業というもののようである。

職業を持つとは、いつでもひとつのこと、同じことをくり返すという意味である。

目をつぶっていても、また、全然緊張なしでもできるまで何回もそれをくり返す。

たとえば私が自分で小屋を作るとか、むしろを編むほか、何にも仕事をしないとする。

―すると私の職業は小屋作り、あるいは、むしろ編みということになる。




だからこんなこともよく起こる。

たいていのパパラギが、その職業ですることのほかは何もできない。

頭は知恵にあふれ、腕は力に満ちている最高の酋長が、

自分の寝むしろを横木にかけることもできなかったり、自分の食器が洗えなかったりする。




職業というのは、つまりこうである。ただ走るだけ、ただ味わうだけ、ただ匂いをかぐだけ、

ただ戦うだけというふうに、いつでもひとつのことしかできないということなのである。

できることはたったひとつだけ、というこの能力には、大きな欠陥と大きな危険がある。

というのは、だれだっていちどくらい、そうしても入江でカヌーを漕がなければならなくなるということは、

大いにあり得ることだから。

大いなる心が私たちに手をくださったのは、木の実をもいだり、

沼地かたタロイモの茎を引きぬいたりするためにである。あらゆる敵から身を守るためである。

踊りや遊び、その他全ての楽しみを楽しむためである。

ただ小屋を作るだけとか、木の実をもぐだけとか、芋の茎を引きぬくだけのために手をくださったのではなく、

いつでもどんなときにでも、手は私たちのしもべ僕であり戦士でなければならない。

だが、パパラギにはこのことがわからない。

だが彼らのしていることがまちがいであること、まったくのまちがいであり、

大いなる心のすべての掟にそむいていることは、こんな白人たちを見ればはっきりする。

職業のため、いつもからだを動かすことができず、

プアア(豚)のように下腹に脂肪がついて走れなくなった人、

日陰に座ってツッシ(手紙)を書くほか何の仕事もせず、

ただ骨筆をにぎっているだけだから、もはや槍をもちあげることも、

投げることもできなくなった人、星をながめたり、考えをしぼり出したりしているだけで、

もはや野生の馬を駆ることができなくなってしまった人。

パパラギが一人前になると、もう子どものように飛んだりはねたりはできなくなってしまう。

風に吹かれて、からだを引きずるようにして歩き、まるでいつも何かにじゃまされているようにのろのろ動く。

そしてこの無気力さを認めようとはせず、こんなふうに言いつくろう。

「走ったり飛んだりはねたりするのは、上品なおとなの礼儀にかなうことではない」

だが、そうは言うものの、これは偽善的な弁解である。

実際には彼らの骨はこわばって動かなくなり、すべての筋肉が喜びを失った。

骨も筋肉も、眠りと死へと追いやられてしまったのだ、職業によって。



パパラギも実は、このことでとても困っている。

一日に一回、いやもっと何回でも、小川へ水を汲みに行くのは楽しいことだ。

しかし日の出から日の入りまでくり返しくり返し水汲みばかりしなければならないとしたら――

最後には、自分のからだの手かせ足かせにむほんを起こし彼は怒りの中で爆発するだろう。

まったく、同じ繰り返しの仕事ほど、人間にとってつらいことはないのだから。



それゆえ職業を持つ人々の心には、憎しみの炎がめらめらと燃えている。

この人たちの心の中には、鎖でしばられ、逃げようとしても逃げられない獣のような何かがある。

そしてすべての人々が、他人をうらやみ、他人に嫉妬しながら、おたがいの職業を比べ合い、

あの職業は尊いとか卑しいとか、しきりにごたくを並べている。

そうではなく、すべての職業は、それだけでは不完全なものなのだ。

なぜなら人間は手だけ、足だけでなく、頭だけでもない。みんなをいっしょにまとめていくのが人間なのだ。

手も足も頭も、みんないっしょになりたがっている。

からだの全部、心の全部がいっしょに働いて、はじめて人の心はすこやかな喜びを感じる。

だが、人間の一部分だけが生きるのだとすれば、ほかのところはみな、死んでしまうほかはない。

こうなると、人はめちゃめちゃになり、やけになり、そうでなければ病気になる。」







Posted by もももも at 00:07│Comments(0)
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